汎美術協会の展覧会活動における基本姿勢と
あいちトリエンナーレ2019で惹起された諸問題について
昭和のはじめ政党政治が力を失い、軍部主導の国家統制が徐々に強まると、美術界においても帝展を中心とする再編がなされていきました。
そのような時代背景の中、昭和8年(1933年)汎美術協会は「新興独立美術協会」として創立され、以来「権威主義的な階層性や審査制度を否定し、すべての作家は対等」との原則に基づく、自由な制作と作品発表の場としての展覧会を続けてきました。
このような立場から、今問われている展覧会の在り方等の諸問題について、現状認識と当会の基本姿勢を確認したいと思います。
8月「あいちトリエンナーレ2019」の一企画である「表現の不自由展・その後」が脅迫を含む抗議を受けて展示が中止されました。その事に端を発し、参加作家のボイコットや様々な立場からの賛否の声と意見対立が有る中、作家たち独自の企画・運営による「サナトリウム」や「ReFreedom_Aichi」など、問題解決に向けた動きが起こりました。それらに後押しされるように県と実行委員会は地裁の仮処分審尋で和解し、10月8日に対策を講じた上で展示が再開されました。
しかしこの間、文化庁による補助金全額不交付の決定があり、それに対する委員の辞任や関係諸団体の抗議表明、さらには国会でも「事前検閲に繋がる」「表現を委縮させる」などとこの問題について言及され、めまぐるしい状況の変化が続いています。
政治的対立が美術に持ち込まれたような構図とも言えますが、もともと美術界内部でもこの展示には様々な評価があり、さらには現代美術に対する疑念が一般社会にあるようです。今回の一連の出来事をイデオロギー対立や理解不足による単なる揉め事として看過することは、私たちの自由な創作と自由な展示という活動に支障をきたすことになるのではないかと危惧しています。また美術のみならず文化全般に影響を及ぼし、人々の分断を増幅することになるのではないかと懸念します。
本来、アートは自由で多様なものです。もちろん自由には責任が伴うものであることは自明であり、自覚と決意をもった活動であるべきです。従ってその評価においても作者・作品を自らの好悪感情や狭隘な固定観念で捉えることなく理解する姿勢こそが重要だと考えます。理解と是認は同一ではありません。
この度の問題では、それを混同したような賛否の反応や無関心さに危機感を覚えます。対立する相手への抗議や無視に留まるのではなく、真偽ないまぜの情報や性急な判断に左右される事なく状況を注視し続け、その歩みを前に進めるような建設的な議論を支持します。また同時にそれぞれの立場での意見表明とその尊重が大切であると考えます。
汎美術協会における作家は、それぞれが自らの意思と責任に基づき、自由な制作と無審査・無表彰の自由な展覧会活動を通じて、今後も微力ながら美術・芸術文化の発展に寄与するため、努力する事を確認します。
2019年10月11日 汎美術協会 事務局